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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)227号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 序論

原告は、審決が「本件補正により補正された明細書の登録請求の範囲には、『ヒンジ6並びに前記受具8の両者を貫く状態で挿抜自在に嵌挿された頭付きピンから成る枢支ピン19』なる構成が記載されているが、この点については、本件考案の願書に最初に添付された明細書及び図面には何ら記載されていず、また、そのような技術内容を示唆する記載もない。さらに、その点については、当時の技術水準からみても自明のことであるとは認められない。」とした認定、判断は誤りであり、かつ、この点についての審決の判断には審理不尽、理由不備の違法があると主張するので、その主張の当否について以下検討する。

2 本件考案の目的

(1) 原本の存在とその成立に争いのない甲第九号証(明細書及び図面を添付した本件考案の願書写)によると、本件考案の願書に最初に添付した明細書には、次のような記載のあることが認められる。

「本考案はモータープール等の出入口に設けるところの伸縮揺動自在な門扉に関するものである。

モータープール等大きな間口を必要とする門での門扉としてその間口の幅に相当する長さを有した格子状の扉があるが、この扉を収納する場合、モータープール内に回動させての収納作業を行なわねばならず、この回動空間内に他物の存在を許さないもので大なるスペースを必要とする不合理なものであつた。

また、この扉を回動せずに長さ方向に移動して収納する場合にあつても、その扉の長さ分を収納し得る空間をモータープール外側に設けねばならないもので、いずれにしても不合理なものであつた。

この点にあつて本考案はかかる門扉をパンタグラフ機構で大きく伸縮自在となし、収縮時にあつてはその収縮長の小半径で回動しての収納を可能となして、大なる間口の閉塞を行なうと共に、この扉の収納時の占有空間を極めて小さくし且つ間口を狭くしない場所での収納を可能となして、大きな間口の開閉における極めて合理的な解決をなさんとするものである。」(第一頁第一六行ないし第二頁第一八行)

この記載によると、本件考案の願書に最初に添付した明細書に記載されていた本件考案の目的に関して、次の<1>及び<2>の点を認めることができる。

<1> モータープール等大きな間口を必要とする門扉は、その間口の幅に相当する長さを有する格子状のものを用いていた。しかし、門扉を収納する場合、モータープール内に回動させるため、この回動空間内に他物の存在を許さない大きなスペースを必要とし、また、門扉を回動させないで長さ方向に移動して収納する場合には、この扉の長さ分を収納し得る空間をモータープール外側に設けなければならないといつた問題点があつた。

<2> 本件考案の願書に最初に添付した明細書に記載された考案は、右<1>の問題点にかんがみ、門扉を伸縮自在となし、門扉を収縮し、収縮した長さの小さい半径で回動させて収納し、間口を狭めないで収納することを目的とする。

そして、前掲甲第九号証によると、本件考案の願書に最初に添付した明細書には、右の各点以外に本件考案の目的に関する記載はないことが認められる。

そうすると、本件考案の願書に最初に添付した明細書に記載された考案においては、門扉のヒンジ部における枢支ピンが、受具とヒンジに対し挿抜自在に嵌挿された構造を採用することに関する目的はなかつたというべきである。

(2) 原告は、「本件考案の願書に最初に添付した明細書及び図面には、二次元方向滑動自在の接地キヤスターが記載されており、これはレールの使用になじまないし、右明細書及び図面には、接地キヤスターを載置転動させるレールが示されていないから、右接地キヤスターは、地面に接着させて用いるものであることが規定されていたものである。そして、モータープール等の入口に設けられる門扉の接地キヤスターの移動範囲は二次元面において非常に広いから、地面を正しく水平面に仕上げることは困難であり、高価なものとなる。したがつて、本件考案の願書に最初に添付した明細書及び図面には、接地キヤスターが門扉操作中に上下に動くことが可能でなければならないという目的が示されていた」旨主張する。

しかしながら、前掲甲第九号証によると、本件考案の願書に最初に添付した明細書の第三頁第一三行ないし第一六行に、「この門扉1の伸縮端としての他端側の縦長部材2にはこれと平行に外方に支持部材9を連結し、この支持部材9の下端に二次元方向滑動自在なキヤスター10を取付けている。」と記載されていることが認められる。この記載によると、接地キヤスター(キヤスター10)は、二次元方向すなわち面の上において滑動自在なものとされていて、接地キヤスターが、上下にも移動することが自在であることは示されていないというべきである。また、門扉が設けられる地面が水平であるか否かについての記載は、本件考案の願書に最初に添付した明細書及び図面に存在しないことが、前掲甲第九号証によつて認められる。したがつて、原告が主張するように、地面を正しく水平面に仕上げることは困難であり、高価なものとなるとしても、そのことをもつて、右明細書及び図面に、接地キヤスターが門扉操作中に上下に動くことが可能でなければならないという目的が示されていたとする根拠とすることはできない。

3 願書に最初に添付した明細書の記載

(1) 前掲甲第九号証によれば、本件考案の願書に最初に添付した明細書及び図面には、次の<1>ないし<3>の記載があることが認められる。

<1> 「一定長の複数本の縦長部材2‥をその各部材2‥の長さ方向を上下方向に位置し、各部材2を平行に水平横方向直線状に配置すると共に、この各部材2‥を斜行した複数の連結杆3からなるパンタグラフ機構4で枢支連結して、縦長部材2‥を横方向伸縮自在となし、またこの門扉1の横方向一端側の縦長部材2にはこれに平行に支持部材5を連結すると共にこの支持部材5に上下二個設けたヒンジ6、6を固定部7として間口の端部に設けてある支柱に埋設の受具8、8に回動自在に枢支連結し、他方この門扉1の伸縮端としての他端側の縦長部材2にはこれと平行に外方に支持部材9を連結し、この支持部材9の下端に二次元方向滑動自在なキヤスター10を取付けている。またこの門扉1の横方向中央位置の縦長部材2の下端にもキヤスター10を取付けて、前記端部下端に取付けたキヤスター10と共に接地している。」 (第三頁第二行ないし末行)

<2> 「この構成に於る伸縮自在な門扉1によると、横方向一杯に伸長させての門閉塞が行なえ、次に収縮時には、伸長状態にある伸縮端部を縮小方向に押し操作し、キヤスター10、10を滑動させて、パンタグラフ機構4を収縮作動し、隣合う縦長部材2‥が接触する程度まで収縮し、その次にこの横方向長さの短かい状態の門扉1を固定部7として支柱を中心に回動してゆき、間口全体を開放するものである。

この場合、収縮して後の回動はその半径が極小となつているので回動に必要な空間が小さくて良く、従つてそれ以外のスペースを非常に大ならしめ得る利点を有している。また、小半径の回動なので、作業者が押し又は引き操作によつて行なうものであれば移動量が少なくて良いものである。」(第五頁第五行ないし末行)

<3> 「以上要するに本考案の伸縮揺動可能な門扉はアルミ合金の押出しまたは引抜き製による一定長さの複数本の縦長部材2‥をパンタグラフ機構4を介して横側方向並置連結して横側方向に伸縮自在な門扉1を形成し、この門扉1の横側方一端側の縦長部材2をヒンジ6、6を介して支柱等の固定部7に枢支連結して縦軸芯周りに回動自在になすと共に、この門扉1の少なくとも伸縮端側部分の下端に接地キヤスター10を敷設してあるが故に、伸張状態での大なる間口の門の閉塞が行なえ、収縮しての回動によつて小なる半径でのスペースでの小さな回動作業が行なえると共に収納時にも小なるスペースでの収納状態が達成し得るに至つた。

即ち本考案は伸縮と回動とによる二操作によつて大なる間口の門の閉塞ができ且つ小なるスペースでの収納がなし得、更に収納作業時での必要なスペースを極めて少なくして、他物の邪魔をすることを非常に少なくなし得るに至つたのである。」(第六頁第一行ないし末行)

(2) これらの記載からすると、本件考案の願書に最初に添付した明細書には、次の<1>、<2>の点が記載されていると読み取ることができる。

<1> 一定長さの複数本の縦長部材2‥をパンタグラフ機構4を介して、横側方向に並置連結して横側方向に伸縮自在な門扉1を形成したこと。門扉1の横側方一端側の縦長部材2には、これに平行に支持部材5を連結するとともに、この支持部材5にヒンジ6、6を上下二個設けたこと。固定部7として間口の端部に設けてある支柱に埋設してある受具8、8にヒンジ6、6を枢支連結して縦軸芯周りに回動自在となしたこと。門扉1の他端側の縦長部材2には、これと平行に外方に支持部材9を連結したこと。支持部材9の下端に、二次元方向の滑動が自在なキヤスター10を取り付け、また、門扉1の横方向中央位置の縦長部材2の下端にも同様のキヤスター10を取り付けて、両キヤスター10、10を接地させること。キヤスター10は、支持部材9のキヤスター10のみでもよいこと。

<2> 門扉1の開閉に際し、キヤスター10を滑動させて伸縮自在な門扉の伸縮操作を行うこと。門扉1の収納に際しては、パンタグラフ機構4を収縮作動し、隣り合う縦長部材2、2が接触する程度まで収縮させ、次いで、キヤスター10を滑動させることによつて、横方向長さの短くなつた門扉を支柱の周りに回動させる操作を行い、間口全体を開放させること。

4 願書に最初に添付した図面の記載

前掲甲第九号証によると、本件考案の願書に最初に添付した図面の第1図には、伸張状態にある門扉1が記載され、第2図には、収縮状態にある門扉1が記載されていることが認められる。右第1図及び第2図には、枢支連結の部分において、ヒンジ6、6と受具8、8を貫通して枢支ピンが嵌挿していることが記載されている。

5 「挿抜自在」の記載について

(1) 本件考案の願書に最初に添付した明細書の前記各記載によると、そこに記載された伸縮自在な門扉においては、<1>門扉を横方向に伸縮させる開閉操作、及び、<2>隣り合う縦長部材が接触する程度まで収縮させた門扉を回動させて間口全体を開放させる収納操作、の二操作をなすものであるということができる。そして、右二操作をするに当たつて、右枢支連結の部分においては、門扉のヒンジ6、6は、支柱に埋設された受具8、8に対して回動自在であることのみが要求され、それ以外に、受具8、8に対して上下に動く機能は求められていないというべきである。

また、本件考案の願書に最初に添付した図面の第1図、第2図に示された枢支連結の部分においては、ヒンジ6、6と受具8、8に対して枢支ピンが貫通した状態で嵌挿された構造が示されているだけであつて、枢支ピンが挿抜自在であるという構成を読み取ることはできない。そして、前掲甲第九号証によると、本件考案の願書に最初に添付した図面における第1図、第2図以外の図面にも、右構成についての記載はないことが認められる。

以上のとおりであるから、本件考案の願書に最初に添付した明細書及び図面には、ヒンジと受具の両者を貫く状態で嵌挿された枢支ピンについて、ヒンジ及び受具に枢支連結して縦軸芯周りに回動自在となす機能を有することのみが示され、枢支ピンが挿抜自在となつていることに関しては、何も示されていないというべきである。

(2) 原告は、枢支ピンが挿抜自在なヒンジ部の形状は、昭和四八年実用新案出願公開第一一四五三九号公報(甲第四号証)と昭和四七年実用新案出願公開第一八三三二号公報(甲第五号証)にも記載されていて、この構造は広く知られていたところであると主張する(請求の原因四6)。しかし、原告がこの主張の根拠として述べる右各公報の記載は、これらの公報に係る考案についての構成に関するものにすぎず、右各公報に、原告主張のような構成が記載されているからといつて、本件考案の願書に最初に添付した明細書及び図面に、枢支ピンが挿抜自在なヒンジ部の形状が記載されていたということはできない。したがつて、原告の右主張をもつてしても、本件考案の願書に最初に添付した明細書及び図面の記載に関する前記認定を覆すものではない。原告の右主張は失当である。

(3) 原告はまた、門扉を、縦軸芯周りに回動自在に枢支連結する場合、受具とヒンジとの重なり部分に貫通孔を設け、頭付きピンを上方から貫通装着して用いることが古くから行われており、ピンが二つの部品に対して挿抜自在に構成されて、分解掃除並びに補修が容易であるように、ピン継手が作られていることが、当業者の技術常識である旨主張する(請求の原因四8)。

しかしながら、原告主張の右の点が、当業者の技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。

なお、原告主張の右の点が技術常識に属する事項でないとしても、少なくとも周知の技術に属する事項であつたかもしれないが、この事項を明細書及び図面の記載から自明のものとして読み取ることができるかについては、発明の目的との関連においてこの点を判断するべきである。

この点についてみるに、まず前判示の本件考案の要旨によると、審決が認定しているように、本件考案は本件補正後において、「縦長部材側に固定されたヒンジと、受具の両者を貫く状態で挿抜自在に嵌挿された頭付きピンから成る枢支ピンとを介して、該枢支ピン軸芯周りで回動自在に枢支連結する」ことを必須不可欠の構成要件としていることが明らかである。そして成立に争いのない甲第二号証(本件出願の公告公報)によると、本件補正後において本件考案は、前記2で判示した、本件補正前における目的のほか、「門扉の移動を案内するためのレール敷設工事を必要とせず、しかも極めて軽く円滑に開閉できる門扉を提供しようとする」(同公報第一欄第二四行ないし第二七行)ことをも目的とし、右要件により、「レールのない単なる床面で、キヤスター車輪の走行跡や砂利、小石等の存在によつて平坦な水平面上でキヤスター車輪の転動が行われない場合でも、凹凸部に乗り上げたキヤスター車輪の上下振動を門扉全体が吸収緩和することによりその旋回作動を円滑にすることができる」旨(同第五欄第二三行ないし第六欄第一一行)の作用効果を奏するものであることが認められる。

右にみた本件補正後における本件考案の目的等と、前記2で判示した、願書に最初に添付した明細書及び図面に示される本件考案の出願当初の目的等を対比し、前記(1)で判断したところを併せみると、たとえ、原告主張の点が当業者において周知の技術であつたとしても、枢支ピンが挿抜自在なヒンジ部との構成が、本件考案の願書に最初に添付した明細書及び図面の記載から自明であつたと認めることはできない。

6 まとめ

原告のその他の主張も、枢支ピンがヒンジ、受具を貫いて挿抜自在に嵌挿されるとの構成が、本件考案の願書に最初に添付した明細書及び図面の記載から自明であつたことを裏付けるものではなく、他に、右構成が右明細書及び図面から自明であつたことを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、「本件補正により補正された明細書の登録請求の範囲には、『ヒンジ6並びに前記受具8の両者を貫く状態で挿抜自在に嵌挿された頭付きピンから成る枢支ピン19』なる構成が記載されているが、この点については、本件考案の願書に最初に添付された明細書及び図面には何ら記載されていず、また、そのような技術内容を示唆する記載もない。さらに、その点については、当時の技術水準からみても自明のことであるとは認められない。」とした審決の認定、判断に誤りはないというべきである。

原告は、審決の右認定、判断及び「本件補正が明細書の要旨を変更するとする右判断は、被請求人が提出した、単なる頭付きピンがヒンジと受具を貫いている枢支構造を示している審判手続における乙第二号証をもつてしても、左右することができない。」とした部分の判断は、本件考案の願書に最初に添付した図面に表されたヒンジの具体的構造について全く言及しなかつたものであり、審判手続における乙第二号証(本訴における甲第四号証)についての理由を述べていないから、審決には審理不尽、理由不備の違法があると主張する。しかし、審決の右認定、判断では、本件考案の願書に最初に添付した図面に本件考案の前記構成が記載されていないこと、及びこの構成を示唆する記載もないことが明確に述べられているから、この点において審決に原告主張のような違法はない。また、審判手続における乙第二号証(本訴における甲第四号証)の公報の記載をもつて、願書に最初に添付した明細書及び図面に本件考案の右構成が記載されていることを認めることができないことは前に判示したとおりであるから、「本件補正が明細書の要旨を変更するとする右判断は、……(中略)……審判手続における乙第二号証(本訴における甲第四号証)をもつてしても、左右することができない。」とした審決の判断にも、原告が主張するような違法はないというべきである。

なお、原告は、審決が理由中において仮定的判断にとどめている点を非難しているが(請求の原因四の2の項)、当事者間に争いのない請求の原因三の事実(審決の理由の要点)によれば、原告が指摘するその理由の箇所は、「被請求人が主張するように、たとえ、……(中略)……としても、枢支ピンが『挿抜自在に』嵌挿された構成は、到底、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載されているということはできず、また、これらの記載からみて当業者にとつて自明なものということができない。」としているのであつて、原告の右主張は、その主張どおりであるとしても審決の結論に影響を及ぼすところのないものであるから、審決の取消事由としてはそれ自体理由のないものである。

そうすると、本件補正は、本件考案の願書に添付された明細書の要旨を変更するものと認められるとした審決の認定、判断に誤りはなく、審決には原告主張の審理不尽、理由不備の違法もないというべきであり、この認定、判断を前提として本件考案の進歩性を否定した審決の判断に誤りはなく、原告主張の審決取消事由はすべて理由がない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

押出し又は引抜きによる一定長さの複数本の縦長部材2……をパンタグラフ機構4を介して横側方向に並置連結して横側方向で伸縮自在となし、その一側開放端側に支持部材9を連結して門扉1を形成し、この門扉1の横側方一端側の縦長部材2を、支柱等の固定部7側の受具8に対して、該受具8とは別体に構成され、かつ、上下方向で前記受具8との重ね合わせ代ろを有する状態で前記縦長部材2側に固定されたヒンジ6と、該ヒンジ6並びに前記受具8の両者を貫く状態で挿抜自在に嵌挿された頭付きピンから成る枢支ピン19とを介して、該枢支ピン19軸芯周りで回動自在に枢支連結し、さらに、この門扉1の開放端側に設けた前記支持部材9の下端に接地キヤスター10を付設してあることを特徴とする伸縮揺動自在な門扉。

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